パーカー処理(リン酸塩皮膜処理)は、鉄鋼部品の防錆や塗装下地として定番の表面処理の一つです。防錆性や塗装密着性、潤滑性を向上させる重要な役割を担う一方で、処理種別による性能差や寸法変化への影響など、設計者が押さえるべき注意点も存在します。この記事では、パーカー処理の代表的な3種類ごとの特徴とメリット・デメリット、選定のポイント、そしてメビーでの活用方法を解説します。
目次
パーカー処理(リン酸塩皮膜処理)とは?
パーカー処理(リン酸塩皮膜処理)は、鉄鋼部品の表面にリン酸塩の結晶性皮膜を化学的に形成する化成処理です。
この処理を行う主な理由は、以下のとおりです。
- 皮膜による防錆
- 塗装の密着性向上
- 摺動部品の潤滑性向上
これらの効果を期待して、主に鉄鋼部品に対して施され、広く利用されています。
パーカー処理の種類
パーカー処理は形成されるリン酸塩皮膜の主成分によっていくつかの種類に分かれます。代表的なパーカー処理の種類は、以下の3種です。
リン酸亜鉛処理(ボンデ処理)
リン酸亜鉛処理(ボンデ処理)は、処理液中のリン酸イオンと亜鉛イオンの反応により亜鉛系のリン酸塩皮膜を形成する手法です。耐食性に優れており、塗装下地としての性能が非常に高いのが特徴です。自動車のボディや家電製品、建材など、高い防錆性能と塗装品質が求められる製品に広く利用されます。皮膜は灰色から濃い灰色を呈しており、美観は若干劣ります。
リン酸マンガン処理(リューブライト処理)
リン酸マンガン処理(リューブライト処理)は、厚く硬いリン酸マンガンの結晶皮膜を形成するのが特徴です。皮膜の多孔質な構造が潤滑油を保持する(保油性)ため、金属同士が直接接触するのを防ぎ、摩耗や焼き付きを抑制します。エンジン部品やトランスミッションのギア、ピストンリングといった、高い負荷がかかる摺動部品に利用されます。
リン酸鉄処理
リン酸鉄処理は、リン酸鉄の非常に薄い皮膜を形成する処理方法です。他の処理に比べて皮膜が薄く、耐食性は劣りますが、処理工程がシンプルで低コストなのが大きなメリットです。塗装の密着性を向上させる効果は十分に得られるため、スチール家具やロッカー、電気機器の筐体など、高い耐食性が要求されない屋内使用の製品に適しています。
パーカー処理工程
パーカー処理の工程は、主に「前処理」「化成処理」「後処理」の3ステップで構成されます。
前処理
- 脱脂洗浄で油分を除去し、必要に応じて酸洗いで錆を落とす。
- 皮膜の均一性を左右する最も重要な工程。
- ここでの不備は処理ムラの原因となる。
化成処理
- リン酸塩処理液に素材を浸漬(またはスプレー)し、化学反応させる。
- 処理時間は数分から数十分。
- 素材表面に不溶性のリン酸塩皮膜が析出して形成される。
後処理
- 水洗・乾燥を行う。
- 防錆目的なら防錆油を塗布する。
- 塗装下地なら塗装工程へ進む。
パーカー処理のメリット
ここからはパーカー処理の主なメリットを4点紹介します。
耐食性の向上(防錆効果)
パーカー処理で生成されるリン酸塩皮膜は化学的に安定しており、素材である鉄の表面を覆って腐食因子から保護するバリアとして機能します。無処理の状態に比べて錆の発生と進行を大幅に抑制することが可能です。
特に、皮膜形成後の後処理で防錆油を塗布すると、皮膜の持つ微細な孔に油が保持され、防錆効果が飛躍的に向上します。このため、部品の輸送中や保管中の錆対策として極めて有効な手段です。
塗装の密着性向上(下地効果)
リン酸塩皮膜の表面は微細で複雑な凹凸形状をしているため、上塗り塗装との密着力が高まります。塗料が入り込んで硬化し、釘が壁に刺さるように物理的に強固な結合が生まれます。これを「アンカー効果」と呼びます。
万が一、塗膜に傷がついても、皮膜が腐食の広がりを食い止めるため、塗膜の浮きや剥がれを予防可能です。自動車や家電製品など、長期的な外観維持が求められる製品の下地処理に適しています。
摩耗防止(耐摩耗性の向上)
部品表面の耐摩耗性を高める効果もリン酸塩皮膜のメリットです。特に、硬質で厚みのあるリン酸マンガン皮膜は、金属同士が直接接触するのを防ぐ緩衝層として機能し、優れた耐摩耗性を発揮します。
ギアやシャフトといった摺動部品に処理を施せば、運転中の摩耗を大幅に低減し、部品の寿命を延長できます。パーカー処理は機械製品の信頼性向上に不可欠です。
潤滑性の付与(なじみ向上)
リン酸塩皮膜は、表面にある無数の微細な孔によって、潤滑油を保持する性質(保油性)を持っています。一度塗布した油が長期間にわたって潤滑性能を維持するため、特に摺動部品の運転初期における「なじみ性」向上をもたらします。
油膜が切れにくくなることで、安定した潤滑状態が保たれるため、摩擦や摩耗も低減可能です。エンジン部品やトランスミッション部品など、スムーズな作動と長期的な信頼性が要求される機械部品にとって重要なメリットです。
パーカー処理のデメリット
一方で、パーカー処理にもデメリットは存在します。主なデメリットは以下の4種類です。
寸法変化が生じる
パーカー処理では、数μmから十数μmの皮膜が形成されるため、厚み分だけ部品の寸法が増加します。精密な公差が求められる嵌め合い部品や軸受け部などでは無視できない変化です。
この寸法変化をあらかじめ見込んで加工寸法を決定する公差設計が求められます。皮膜は硬く、後から均一に除去するのは困難なため、設計・加工段階での事前検討が重要です。
処理ムラ・外観のばらつき
パーカー処理のデメリットのひとつが、処理ムラ・外観のばらつきです。素材の成分や熱処理の状態、前処理のばらつきなどによって、色合いや仕上がりにムラが生じやすいという性質があります。
特に、大量の部品を一度に処理する際に部品同士が重なると、その部分に皮膜が生成されない不良も起こり得ます。外観品質が重視される製品には不向きであり、通常は塗装などの後工程が必要です。
素材・形状による制限
パーカー処理が適用できるのは、主に炭素鋼や鋳鉄などの鉄系材料に限られます。ステンレス鋼やアルミニウム、銅合金といった非鉄金属には、化学反応が起こらないため皮膜を形成できません。これらの素材で構成された部品には利用不可能です。
また、鉄とアルミなど異種金属を組み合わせたアッセンブリ部品の場合、鉄の部分にのみ処理が施されるため、マスキングなどの対策が必要になる場合があります。
処理液の種類を指定できない場合がある
パーカー処理にはリン酸亜鉛、リン酸マンガンなど複数の種類があり特性が異なります。加工を依頼する表面処理業者やサービスによっては、これらの処理液の種類を細かく指定できません。
図面に単に「パーカー処理」と指示した場合、意図していた耐摩耗性(マンガン系)ではなく、耐食性重視(亜鉛系)の処理が行われる可能性があります。期待する性能を得るためには、事前の仕様確認が不可欠です。
パーカー処理に関するよくあるQ&A
パーカー処理に関するよくある質問をまとめました。
パーカー処理の効果は何ですか?
主な効果は「耐食性の向上」「塗装の密着性向上」「摩耗防止」「潤滑性の付与」の4点です。
表面に化学的に安定したリン酸塩皮膜を形成することで錆の発生を防ぎ、皮膜表面の微細な凹凸がアンカー効果を発揮して、塗料を強力に密着させます。さらに、皮膜の保油性により摺動部品の摩耗を防ぎ、潤滑性を高める効果も期待できます。
パーカー処理の皮膜厚さはどのくらいですか?
パーカー処理で形成される皮膜厚さはごく薄く、一般に1〜20μm程度です。処理に用いるリン酸塩液の種類(亜鉛系・マンガン系など)や素材によって膜厚は異なります。
膜厚は部品の最終的な寸法に影響を与えるため、特に精密な公差が要求される部品では、設計段階でこの寸法変化を考慮しなければなりません。
パーカー処理と黒染めの違いは何ですか?
パーカー処理では、1〜20μm程度のリン酸塩皮膜が形成されます。一方、黒染めは鉄素材表面に黒錆(四三酸化鉄)の薄膜(約1〜2μm)を形成する化成処理です。黒染めは安価にでき、一定の防錆効果が必要な場面で用いられます。
パーカー処理の前処理の目的は?
パーカー処理では、皮膜生成前に、皮膜の密着性や均一性を確保するために不可欠な前処理が行われます。主な工程は、部品表面の油分や汚れを除去する脱脂洗浄と、錆や酸化スケールを取り除く酸洗い(除錆)です。
前処理が不十分だと、皮膜が正常に生成されず、処理ムラや密着不良などの品質問題に直結するため、化成処理本体と同じく非常に重要な工程です。
パーカー処理はどんな材質に施せますか?
パーカー処理は主に鉄鋼材料(低炭素鋼・鋳鉄など)に適用できます。ステンレス鋼(SUS)やアルミニウムなど鉄を含まない金属(非鉄金属)には反応せず処理できません。
メビーのパーカー処理
「meviy(メビー)」では、表面処理にてパーカー処理を選択可能です。
対応材質
(切削角物・切削丸物) |
S45C・SCM435・SNCM439・SS400 A1050・A2011・A5052・A6061 C1018・C1020 |
切削角物の技術情報マニュアルはこちら
切削丸物の技術情報マニュアルはこちら
まとめ
パーカー処理は、鉄鋼部品の性能を高める表面処理です。耐食性重視のリン酸亜鉛、耐摩耗性重視のリン酸マンガンなど、目的に応じた種類選定が重要となります。設計者は、皮膜による寸法変化を公差に反映させ、適用材質にも注意を払う必要があります。
本記事を参考にパーカー処理の要点を理解し、製品の耐久性と品質の向上に役立ててください。