今回のシリーズ記事では、幾何公差をさらにステップアップしてコストダウンに寄与する最大実体公差方式の意味と図面のルールを解説します。
第4回目のこの記事では、14種類ある幾何特性のうち最大実体公差方式を適用できるものを整理したうえで、形状偏差に属する真直度を題材に、サイズ公差から動的公差線図を経て図面を完成させるまでの手順を解説します。データムを使用しない形状偏差は、サイズと幾何公差の相互依存だけに集中できるため、最大実体公差方式の考え方をつかむのに適した題材です。
第1回目:独立の原則と包絡の条件を理解する
第2回目:最大実体公差方式とは
第3回目:公差を見える化する動的公差線図
目次
1. 最大実体公差が適用できる幾何特性
最大実体公差を適用する目的は、「サイズ公差と幾何公差とが相互に依存する部品同士の組み付けを妨げることなく部品製作を容易にすること」です。
最大実体公差は経済的利点をもたらしますが、次の場合には適用しません。
- リンクや歯車など中心間距離が重要機能を持つ運動機構
- ねじ穴
- 平面または線(中心平面または中心線をもたないもの)
- しまりばめ(圧入)など、物理的に互換性を求めることができないもの
また、14種類の幾何特性すべてに最大実体公差方式を適用できるわけではありません。JIS B 0023によると「この公差方式は、軸線または中心平面に適用しサイズと幾何公差の間の相互依存関係を考慮している」とあります。
したがって中心線や中心平面をもつサイズ形体のみに適用できます。今回の記事では次表に示す偏差のうち、形状偏差に絞り真直度の適用事例を紹介します(表4-1)。
表4-1 最大実体公差方式を適用できる幾何特性
| 偏差の 種類 |
幾何特性の 種類 |
中心線あるいは中心平面を もつサイズ形体 |
線あるいは面などの 表面形体 |
|---|---|---|---|
| 形状 偏差 |
真直度 | 〇 | × |
| 平面度 | 〇 | × | |
| 真円度 | − | × | |
| 円筒度 | − | × | |
| 線の輪郭度 | 〇 | × | |
| 面の輪郭度 | 〇 | × | |
| 姿勢 偏差 |
平行度 | 〇 | × |
| 直角度 | 〇 | × | |
| 傾斜度 | 〇 | × | |
| 線の輪郭度 | 〇 | × | |
| 面の輪郭度 | 〇 | × | |
| 位置 偏差 |
同軸度/同心度 | 〇 | − |
| 対称度 | 〇 | × | |
| 位置度 | 〇 | × | |
| 線の輪郭度 | 〇 | × | |
| 面の輪郭度 | 〇 | × | |
| 振れ 偏差 |
円周振れ | − | × |
| 全振れ | − | × |
注)〇…最大実体公差方式を適用できる
×…最大実体公差方式を適用できない
-…幾何公差として表記できない
形状偏差の特徴は、データムを使用しないことです。まずは最大実体公差方式をどのように考えるかを確認しましょう。
2. 真直度に最大実体公差方式を適用する(2部品の公差値が対称の例)
真直度(JIS B 0621)の意味から復習しましょう。
「真直度(Straightness)とは、直線形体の幾何学的に正しい直線からの狂いの大きさをいう」と定義されます。
真直度は、基本的な概念である“真っ直ぐ”に対して、どれだけ反ったりうねったりしてもよいかを規制するものです。
真直度は、中心線指示と母線指示のどちらでも指示ができますが、最大実体公差方式を適用する場合は中心線指示の場合のみ適用できます。
真直度の動的公差線図の作成過程を確認していきましょう。
軸①をハウジング②に挿入する構造を想定します(図4-1)。

図4-1 部品のはめあい関係
部品①と部品②において、互いに基準寸法に対してサイズ公差が対称関係で指示した図面例を見てみましょう。
注)「サイズ公差が対称関係」とは、2部品の公差値が同じで正負だけが異なることをいう。
軸と穴のそれぞれに反りやうねり、真円からの変形があると、ハウジングに軸を挿入できない可能性があることから、あらかじめ軸径と穴径の寸法はわずかな隙間が確保できるように公差値を決めました(図4-2)。

図4-2 軸とハウジングのサイズ公差だけの図面例
1)動的公差線図の作成①
サイズ公差の関係だけを表した線図を描きます(図4-3)。

図4-3 サイズ公差の関係
2)動的公差線図の作成②
サイズのマージンを半々にして幾何公差値に付与します(図4-4)。

図4-4 サイズのマージンを真直度として適用
3)動的公差線図の作成③
ここで最大実体公差方式とは、どういうものであったかを思い出してみましょう。
- 最大実体寸法でできたとき、幾何特性の公差値を必ず守る。
- 最大実体寸法から離れた分だけ隙間が増えるので、その差分を段階的に幾何公差にボーナス公差として追加する。
上記の考えを線図に加えることで動的公差線図が完成します(図4-5)。

図4-5 最大実体公差を表す動的公差線図
4)最大実体公差方式の図面に更新
図4-5の動的公差線図の緑色の三角領域を増やすために公差記入枠内に〇M記号を追加して最大実体公差方式を適用する図面に改変しました(図4-6)。

図4-6 最大実体公差方式を適用した図面例
3. 真直度に最大実体公差方式を適用する(2部品の公差値が非対称の例
図4-6のように、同じ公差値を正負対称となるように設計する必要はありません。部品①と部品②において、互いに基準寸法に対してサイズ公差が非対称の数値で指示した図面例を見てみましょう(図4-7)。

図4-7 公差値が非対称の部品のはめあい関係と図面
1)動的公差線図の作成①
サイズ公差の関係だけを表した線図を描きます(図4-8)。

図4-8 サイズ公差の関係
2)動的公差線図の作成②
サイズのマージンを半々にして幾何公差値に付与します(図4-9)。

図4-9 サイズのマージンを真直度として適用
3)動的公差線図の作成③
最大実体公差方式によるボーナス公差を追記します(図4-10)。

図4-10 最大実体公差を表す動的公差線図
4)最大実体公差方式の図面に更新
図4-10の動的公差線図の緑色の三角領域を増やすために公差記入枠内に〇M記号を追加して最大実体公差方式を適用する図面に改変しました(図4-11)。

図4-11 最大実体公差方式を適用した図面例
4. まとめ
最大実体公差方式を使う以前に、幾何公差の値ってどうやって決まるのかわからなかった設計者も多いことでしょう。
反りやうねりといった変形を見越してサイズ公差にマージンをとり、それを2部品で分け合うことで決めることがわかったと思います。
ただし妥当なサイズ公差のマージンは加工の担当者と相談するか、加工サンプルデータから導かなければ無駄にコストが上昇するリスクを伴うことに留意しましょう。
今回は、形状偏差である真直度に最大実体公差方式を適用するにあたり、幾何特性を中心線指示にすれば問題なく使えることがわかりました。
また2部品の公差値が対称であっても非対称であっても問題なく使えることも理解できたと思います。
次回は、最大実体公差の適用例(姿勢偏差編)として平行度・直角度・傾斜度の例について解説します。



