プロフェッショナル連載記事 開発現場でプロジェクトマネジメント力を極める

製造業のプロジェクトチーム構成・高難度のプロジェクトを円滑に進めるには

近年、製造業を取り巻く環境は大きく変化しており、競争のグローバル化や顧客の趣味趣向の多様化によって、製品開発プロジェクトの難易度は年々高まっています。不確定要素が多く短納期であることが多い高難度のプロジェクトを円滑に進めるには、プロジェクトチームの構成が重要です。
しかし、製造業に多い機能別組織のように機能ごとに人員をアサインするだけでは、高難度のプロジェクトをうまく進められないことがあります。そこで、プロジェクトを円滑に進めるために、どのような考えでプロジェクトチームを構成すればいいか、考え方の一つを提案します。
取り巻く状況によって構成すべき組織は異なりますが、少しでも参考になれば幸いです。

難易度の高いプロジェクトで失敗に陥る原因

難易度の高いプロジェクトには、失敗に陥る原因が複数潜んでいます。あらかじめどのような原因で失敗に陥るかを事前に明確にしておくことで、対策を取ることが可能です。
ここでは、失敗に陥る原因の中で、代表的なものを3つ紹介します。対策となるチーム構成の考え方については、後述します。

短納期を実現するためのスケジュール調整ができない

プロジェクトの難易度が高くなる要因の一つとして、標準的な日程よりも短納期で対応しなければならない状況があります。昨今は、開発競争の激化により開発日程の短縮が求められることが多く、従来は各担当の作業を直列に繋げていれば成立したものが開発日程の短縮により成立しなくなっています。
短納期への対応として、業務効率化やシミュレーションなどデジタル技術の活用などが考えられますが、それらはすぐに実現できるほど簡単ではありません。実際には、従業員の残業時間を増やし、根拠なくスケジュールを短縮してしまうことが多くあります。しかし、これらの対策は長い期間継続することはできず、破綻してしまいます。
むやみに残業を増やし、無理にスケジュールを短縮するのではなく、関連する技術的な内容を理解し、スケジュールを構築する必要があります。また、デジタル技術などを導入する場合には、プロジェクト全体の効率化を実現できる手段を選択することが重要です。

マニュアル化されていない初めての課題に対して進め方が不適切

新規開発のプロジェクトや環境変化の影響を大きく受けるプロジェクトでは、今まで経験したことのない課題が多く生じます。過去に経験していれば対策をマニュアル化しておくことで、対策を取ることが可能です。
例えば、今まで扱ったことのない技術を扱う必要があったり、技術単体では扱ったことがあっても、その組み合わせが新規であったりすると、課題が生じます。特に、量産開発で初めての課題が複数発生する場合には、進め方を間違えずに進めていかなければ短納期に対応できません。
未知の課題を効果的に進めていくためには、必要な情報が何かを見定め、量産開発のスケジュールで成立する方法を検討する必要があります。

情報共有が不十分で抜け漏れが発生する

開発する製品の高機能化が進む中で分業化が進み、関係者の人数が多くなると情報共有が十分にできない場合があります。特に、新たに生じた課題は分担が決まっていないため、担当を判断することが難しく、本来必要なメンバに正しく情報共有されない可能性があります。
ただでさえ対策を行う期間が短い状態の中で、情報共有が適切にされないと時間だけが無駄に経過してしまいます。最悪の場合には必要なメンバが気付かない場合があり、もし気付けたとしても、初期に情報共有がされていなければ手遅れになるでしょう。
一方で、情報の抜け漏れが発生しないことを優先して手当たり次第に展開先を増やしてしまうと、供給過多になってしまい取捨選択に時間がかかってしまいます。業務効率が悪化すると共に、本当に必要な情報にアクセスしにくくなってしまうため注意が必要です。

高難度プロジェクトの失敗要因に対するチーム構成による対策

難易度の高いプロジェクトで生じる失敗の原因を解消し、成功に導くための対策にはさまざまなものがあります。その中でもこの記事では、プロジェクトに関わるメンバの選定やチーム構成に関するものを紹介します。多くの場合、既に固められた状態でプロジェクトが始まり担当ではコントロールできない場合が多いですが、既存の枠組みの中でも柔軟に取り組むことが重要です。

機能別組織とは切り離したプロジェクトチームの構築

難易度の高いプロジェクトをこなしていくチーム構成として、多くの製造業で採用されている機能別の組織とは切り離したプロジェクトチームの構築が効果的です。これは、特定のプロジェクトに限定した一時的なもので問題ありません。
プロジェクトに関わるメンバ及び、そのチーム構成を明示的にすることで、担当者間の調整業務や情報共有に関する課題を解消しやすくなります。例えば、各担当者間で技術的な調整が必要な場合、プロジェクトに関する内容に限定することで調整がしやすくなります。また、情報共有に関しても、共有する範囲が絞られるため情報の過多にも陥りにくいでしょう。
可能であれば、一時的にでもプロジェクトに関する大部屋活動など、距離的に近い環境で業務に取り組めるといいでしょう。リモートワーク中心の場合には、仮想的にコミュニケーションを活性化できる場の構築が重要です。移動が必要ないことのメリットを活かした、情報共有の場を構築できるといいでしょう。

プロジェクトチームメンバ選定時には組織横断でバランスを取る

各プロジェクトに、それぞれの機能担当からエースを配置できるのが理想的です。しかし現実は、限られた人員で担当する必要があり、常にエースを配置できるわけではありません。既存のメンバを適切に配置し、その成果を最大化させる必要があります。
高難度のプロジェクトには、未知の課題に対して進め方を提案し積極的に牽引するメンバ、関係者との情報共有やコミュニケーションを活性化させるメンバが必要です。これらは、誰でもできるわけではありません。
組織横断で考えた際に、どの機能担当から必要な能力を持ったメンバを参加させるのか、マネジメント層で情報共有を行い、バランスを取ることが重要です。

プロジェクトチームのマネジメントにおける注意点

高難度のプロジェクトに対するために、機能別組織と並行してプロジェクトチームを構築することを提案しました。既に紹介したように、課題解決に繋がる一方で、プロジェクトチームの構築にはマネジメント上の課題があります。
機能別とプロジェクト別の二つの軸で構成される組織を、マトリックス組織と呼びます。二つの軸それぞれに管理者が存在することになるため、マネジメントが複雑です。

マトリックス組織

マトリックス組織
例えば、工数の管理やプロジェクト間の業務バランス調整は機能別組織の管理者、プロジェクト内の仕事の進め方や方針はプロジェクトチームの管理者が担当するなど、役割を明確に決めておく必要があります。
それにより、参加しているメンバは安心して業務に取り組むことが可能です。

まとめ

難易度の高いプロジェクトにはさまざまな落とし穴があり、従来の進め方が通用しません。情報共有の仕組みや組織間で業務を進める順番の調整など、柔軟な対応が必要不可欠です。
そのためには、製造業に多い機能別組織だけでなくプロジェクトチームの構築が効果的です。プロジェクトチームを構成することがデメリットとならないように、メンバ選定のバランス調整やマネジメントの役割分担については、十分配慮する必要があるでしょう。