プロフェッショナル連載記事 開発現場でプロジェクトマネジメント力を極める

複数の製造業プロジェクト分業で生じる課題を解消するチームマネジメント

製造業では、開発する製品の複雑化や短納期化により、複数のプロジェクトを並行して進めることがあります。これらのプロジェクトを一人でこなすことは難しく、それぞれのプロジェクトに担当者が設置される場合も増えています。
分業をする際にプロジェクトの分業を行うことは、担当や責任範囲を明確にしやすいという点がメリットです。しかし、プロジェクトごとの分業には、いくつかの大きなデメリットがあるのも事実です。複数のプロジェクトごとに担当を分けることの課題とその事例、チームマネジメントという観点での対策を紹介します。

製造業のプロジェクトを分業する理由とプロジェクトごとに分業する課題

製造業では業務量が多い場合、プロジェクトごとに分業を行うことがあります。一人で複数のプロジェクトを担当していた場合には生じなかった課題が生じるため、課題解決のために対策が必要です。まず、製造業のプロジェクトを分業する理由と課題について紹介します。

製造業でプロジェクトごとに分業する理由

開発する製品の電子化が進み製品自体が複雑になったり、開発競争の激化から短納期での開発が必要になったりしています。担当範囲を一人でこなすのが難しくなった場合、役割を果たすためには分業を行う必要があり、その分け方はさまざまです。
例えば、業務範囲ごとに分ける方法があります。しかし、明確に担当を分けられる業務ばかりではなく、担当が不明確な業務で抜け漏れが生じ、後から大きな問題になってしまう可能性があります。また、新たに生じた業務の担当をその都度選定する必要があり、業務量が多い状況では積極的に引き取る人も少ないため、調整に時間がかかります。そこで、責任範囲を明確にするために、プロジェクトごとの分業が選択肢の一つとなります。

課題1:複数のプロジェクトにおける業務の重複

同じ部署・チームで担当する業務では、異なるプロジェクトであっても類似の課題が生じることが多くあります。一人の担当者が複数のプロジェクトを担当していれば、類似の課題が生じても共通の進め方をすることが可能です。しかし、プロジェクトごとに分業している場合には、類似課題を解決するためにそれぞれの担当が独立して動くことで、業務が重複してしまう可能性があります。
例えば、生産工程の歩留りを改善するための課題は、複数の工程で共通です。分業しているとその課題を解決するための検討に割ける人員も少なく、解決に向けたアイディアも解決に割く時間も不足します。また、製品を複数の顧客の製品に搭載するための開発プロジェクトでは、顧客の要求に合わせ込む際に生じる課題は共通となりやすく、業務の重複が生まれやすいです。

課題2:優れた仕事の進め方の共有がうまくできない

製造業、特に設計開発業務では手順が明確に決まっていない仕事が多くあり、このような仕事は担当者ごとに進め方が異なるため、効率や成果に大きな差が出ます。ある担当者は効率的な進め方で成果を出しているのに、類似の仕事をしている他の担当者はうまく進めることができない状況が生じます。優れた人材がいい仕事の進め方をしていても、それを他のメンバが参考にできないのは、もったいないです。
このような状況は可視化されにくいため、明確に課題として認識されない場合が多いです。しかし、類似の業務を行っているメンバ同士のコミュニケーションの機会が少ないことや上司が包括してマネジメントできていない場合には、この課題が生じている場合があります。

プロジェクトごとに分業する課題を解決するためのチームマネジメント

プロジェクトごとの分業により生じる課題を解決するために、チームマネジメントの観点では、どのような工夫をすればいいのでしょうか。解決策の一つとして、情報共有の仕組み構築と業務分担の工夫について紹介します。

対策1:マネージャーが情報共有の仕組みを構築する

課題1・2はそれぞれ、他のプロジェクトでどのような取り組みが行われているか、メンバ間で十分に共有されていないことが要因となっています。そこで、マネージャーは半強制的にでも情報共有の場を構築することが必要です。

チームミーティングでプロジェクトの課題を共有する時間を確保する

多くのチーム・グループで事務連絡や進捗管理のためのミーティングを行っている場合が多いでしょう。週に1度ずつ一人の報告でもいいので、各メンバが担当しているプロジェクトでどのような課題が生じているのか共有し、進め方を議論する時間を設けることが効果的です。
メンバ全員が出席している場で共有することで、担当していないプロジェクトで生じている課題やその解決策の共有、また効果的な意見交換に繋がります。まずは短時間で小さく共有会を始め、効果が大きく出そうであれば共有に割く時間を増やし、規模を拡大するといいでしょう。

チャットツールを活用していい取り組みを簡単に共有できる仕組みを作る

リモートワークの普及により、タイムリーに情報共有が可能なチャットツールを導入する企業が増えています。打ち合わせでは時間がかかるが、メールでは議論が面倒に感じるという場合、チャットツールであれば気軽に共有できるため効率的です。
打ち合わせのように時間を調整することもないため、スピード感を持った情報共有が可能です。もし詳細を把握したい場合には、そのままの流れでweb会議を行ったり、改めて時間を調整し、会議を設定したりするといいでしょう。

対策2:業務分担の分け方を工夫する

特に課題1を解決するために効果の大きい対策として、プロジェクトごとに業務を分担することをやめ、担当の分け方を工夫すると効果的です。

共通の課題解決をまとめて請け負う課題解決担当を設定する

メンバ同士は十分に課題の共有ができていなかったとしても、マネージャーは所属メンバとのコミュニケーションができていれば、各プロジェクトで共通の課題が生じていることは把握できます。そこで、各プロジェクトの担当に解決を任せるのではなく、プロジェクト横断で課題解決に取り組む、課題解決担当を設定するといいでしょう。
プロジェクトごとに対策を行う必要がなくなるため、業務の重複を解消し、効率的な課題の解決に繋がります。また、課題解決を任されたメンバは該当分野の専門性を高めることで、自身の強みとすることが可能です。

一人が複数プロジェクトを担当することで情報を共有する

担当する業務が多いことでプロジェクトごとに分担をしたとしても、それぞれのプロジェクト向けにこなさなければいけない業務は多岐に渡ります。一人で担当する場合、自身のプロジェクトで精いっぱいになってしまい、他の業務を行う時間・精神的な余裕がありません。
一人が複数のプロジェクトに関われるようになれば他のプロジェクトの進め方を把握できるため、それが可能になる体制の構築が必要です。例えば、各プロジェクトの頭脳部分と作業部分を分担することなどが考えられます。
このような業務分担をメンバ自身が行うことは、簡単ではありません。マネジメントが中心となって、一部のメンバに業務が集中しないように分担を決めるといいでしょう。

まとめ

製造業において、膨大な業務をプロジェクトごとという切り口で分業することは、責任を明確にできるというメリットはあります。しかし背反として、担当者個人では解決が難しい大きな課題も生じます。プロジェクト間での業務の重複や情報共有がうまくいかないといった課題を解決するためには、情報共有の仕組み構築や業務分担の工夫が効果的です。これらは担当者に任せていても解決が難しいため、マネージャーがチームマネジメントの課題として、取り組むべきでしょう。