プロフェッショナル連載記事 開発現場でプロジェクトマネジメント力を極める

製造業のプロジェクトマネジメントにおけるコミュニケーションの方法とコツ

製造業のプロジェクトでは、営業、さまざまな分野の技術担当、調達、生産、製造など、幅広い職種のメンバが関わります。円滑なプロジェクト管理を実現するためには、コミュニケーションが重要です。
コミュニケーションにはさまざまな方法があり、コミュニケーションを取る際に生じる課題も、その方法やシーンによって大きく異なります。この違いを知っておくことで、プロジェクトマネジメントを円滑に進めることが可能です。

そこで、プロジェクト管理におけるコミュニケーションをテーマに、前編・後編に分けて解説します。
前編では、コミュニケーションの方法や組織的な課題、そしてそれを解決するためのコツについて紹介します。また、個人のコミュニケーションについては後編で扱うため、あわせてご覧ください。

プロジェクトマネジメントにおけるコミュニケーションの重要性

近年の製造業において特徴的な、短期間で複雑な製品開発プロジェクトのマネジメントを円滑に進めていくためには、密度の高いコミュニケーションが必要です。プロジェクトの規模が大きくなればなるほど関係者が増え、情報共有の重要性は増していきます。
近年は、グローバルな競争の激化やデジタル技術の普及が進んでいます。その結果、従来の開発スケジュールでは自身の担当業務をこなすのが難しい開発プロジェクトもあり、一歩踏み込んだ細やかな調整が必要です。

このように難しいプロジェクトの管理を円滑に行うためには、コミュニケーションの取り方が重要です。もし適切なコミュニケーションが取れなければ、本来やるべき仕事の抜け漏れや担当者間の認識ずれが生じ、プロジェクトがうまく進みません。

製造業におけるコミュニケーションの方法と特徴

製造業におけるコミュニケーションの方法はいくつかに分類でき、用途や状況に応じてそれぞれのコミュニケーション方法を、うまく使い分ける必要があります。

コミュニケーションの方法としては、打ち合わせや立ち話を含む会話、メールやチャットなどのテキストコミュニケーションが代表的です。また、報告書や図面なども、情報を共有する手段であるため、コミュニケーション方法の一つといえるでしょう。
コミュニケーション方法には、それぞれメリット・デメリットがあります。例えば、複数のメンバとタイムリーに情報共有や議論を行う必要がある場合には、打ち合わせが効果的です。形式を重視せず、気軽な質問や関係づくりの雑談を行う場合には、チャットを活用するといいでしょう。状況次第では、複数のコミュニケーション方法を組み合わせることも効果的です。

また、コミュニケーションの方法は、コミュニケーションの相手によって、上下方向、横方向、社外の3つに分類できます。それぞれの概要と特徴は、以下の通りです。

コミュニケーション方法 概要 特徴
上下方向 複数の階層で構成された組織の上下方向のコミュニケーション 担当業務の進め方の相談や責任を持った判断をしてもらうための報告など
横方向 あるプロジェクトに関わる社内メンバ同士の横方向のコミュニケーション プロジェクトに関する情報の共有や担当領域間の調整に必要な議論など
社外 あるプロジェクトに関わる社外メンバとのコミュニケーション 仕様の取り交わしや試験結果の報告と承認など

製造業における課題と良いコミュニケーションのコツ

製造業において、プロジェクトを進めていく際には、コミュニケーションという観点でもさまざまな課題が生じます。そこで、上下方向、横方向、社外といった3つのコミュニケーション方法について、代表的な課題とその対策を紹介します。

上下方向のコミュニケーションにおける課題と対策

製品開発のプロジェクトでは、担当だけでは判断ができずに、上司に判断をしてもらったり、承認をもらったりするシーンが多くあります。特に、組織が複数の階層に分かれている場合、どの階層まで巻き込むかを判断するのは簡単ではありません。
上位になればなるほど責任を持った判断が可能ですが、現場から離れるにつれて技術の詳細な内容は把握しておらず、ポイントを絞った的確な情報共有が必要です。また、情報共有や判断に時間がかかってしまうので、守るべきスケジュールを守れないリスクも生じます。

このように、どの階層で判断すべきか迷った経験のある方は、多いのではないでしょうか?
あらかじめ、判断が必要な内容ごとにどの階層で判断するのかの仕組みを構築し、それを周知徹底しておけば迷う時間が不要になり、スケジュールと責任の両立ができます。
この仕組みは、必ずしも厳密に運用することが望ましいわけではなく、部分的に権限移譲できる仕組みを構築しておくことで、上位層が不在の場合の対応も柔軟に進められます。また、権限移譲をされた部下の育成にも繋がるため、効果的な取り組みです。

また、報告内容の整理については、日頃から上位層向けの内容と直属の上司向けの内容の2種類を準備するように取り組んでいると、準備がスムーズにできるでしょう。例えば、資料の1ページ目は上位層向けに、全体の流れとポイントだけ説明したもの。2ページ目以降に、直属の上司向けに必要な細かい技術の内容を説明したものを用意すれば、重複なく1つの資料作成のみで、複数階層の報告に使える資料を準備できます。

横方向のコミュニケーションにおける課題と対策

複数の職種・担当が関わる製造業のプロジェクトにおいて、開発の進捗や顧客から新たに得た情報を誰にどのような形で共有すればいいかは、難しい問題です。
共有する範囲を広げすぎると処理しなければいけない不要な情報が増え、他の業務に充てる時間を奪ってしまいます。一方で、情報共有を最低限に絞ろうとすると、本来は必要だった情報の共有が漏れ、後から発覚したときには取り返しがつかなくなっていることもあります。
必要な情報を、必要なタイミングで必要な範囲に共有することは、プロジェクトマネジメントを円滑に進めるためのコミュニケーションにおいて、大きな課題の一つです。対策としては、共有する情報を緊急性の高いものとそうでないものに分け、コミュニケーションの範囲と方法を変えることが考えられます。

緊急性が高くない情報を共有するためには、ゆるい参加が可能な定例会の場とネットワーク上の共有情報置き場を構築するといいでしょう。時間的に余裕のあるタイミングで確認し、必要そうなものだけ集中して聞いたり情報を引き出したりすれば、無理なく必要な情報を取得できます。
また、緊急度の高い情報の場合には、必要な関係者への共有が漏れてしまうことがもっとも大きなリスクと考え、想定よりも広い範囲に共有するべきです。結果的に不要だった場合には無駄時間が発生してしまうかもしれませんが、緊急度の高い案件だけであれば影響を最低限に抑えられます。また、必要な情報なのに抜け漏れが発生していた場合のリスクと比較すれば、多少手間が増えても許容できる範囲ではないでしょうか。

社外とのコミュニケーションにおける課題と対策

製造業では、一つの製品を生産する際にも数多くの企業が関係しているため、社外とのコミュニケーションも頻繁に行われています。その中で課題となりやすいのが、製品仕様や責任範囲の明確な取り交わしに関するコミュニケーションです。

本来取り交わすべき内容が不足していたり、開発のスケジュールと取り交わしのタイミングがあっていなかったりすることで、大きな問題に発展する可能性があります。これは、実際に必要になる前段階での準備不足が、大きな要因となっています。
厳しいスケジュールでの開発タイミングに合わせて、必要な取り交わしを行うためには事前の準備が重要です。扱う製品ごと、機能ごとに必ず取り交わさなければいけない情報を明確にしておくことで、スムーズに顧客との共有が可能です。

また、準備した内容から変更が必要になる場合もあります。都度、最終的な責任者が調整・判断に入るのは時間の制約から難しい可能性があるため、あらかじめ権限移譲できる部分、できない部分を明確にしておけば、スムーズに調整を進められます。

まとめ

プロジェクト管理を円滑におこなうためのコミュニケーション方法はさまざまで、それぞれのポイントを押さえ、特徴に合わせた使い分けが必要です。
全体を通して、必要なタイミングで必要な情報がやり取りできるように準備をしておくこと、関わる人数が多いため責任分担と権限委譲を明確にしておくことが、課題解決に繋がるでしょう。

次回の記事では、担当者個人のコミュニケーションにおけるポイントについて、実体験も踏まえて紹介します。