金属加工 ものづくり基礎知識

脱脂洗浄とは?種類・素材・注意点を解説

脱脂洗浄とは、加工されたワークや材料に付着した油脂や汚れを取る工程です。この記事では脱脂洗浄の種類や素材ごとの洗浄方法、注意点などについて紹介します。

脱脂洗浄とは

脱脂とは、一般的には油を落とすという意味の言葉です。しかし脱脂洗浄で除去するのは、油だけではありません。ほこりや加工クズなど、さまざまな汚れが除去されます。
たとえば金属加工品に付着している汚れには、加工時に付着する切削油や切り子、研磨剤の残留物、ほこりなど、さまざまなものがあります。このような付着物は、アルマイトや塗装などが加工物に密着するのを妨げ、表面加工の不良につながります。そのため、表面加工の前には加工物表面に付着した異物を除去する必要があるのです。
また機械部品のメンテナンスや点検のために、取り外した部品に付着した油や汚れを除去することもあります。
このような処理をまとめて脱脂洗浄といいます。

脱脂洗浄の種類

脱脂洗浄には、さまざまな種類があります。脱脂の方法は物理的方法と化学的方法の2種類に大別されます。

物理的方法

物理的方法は、油をはじめとする異物を物理的な力により除去する方法です。

蒸気洗浄

蒸気洗浄とは溶剤を加熱して蒸気化させ、それを被洗浄物に吹き付ける方法です。蒸気の温度に対し、被洗浄物の温度が低いことにより、被洗浄物の表面で蒸気が凝縮し、流れ落ちます。これにより洗浄が行われる仕組みです。
蒸気洗浄はスチーム洗浄やベーパー洗浄ともよばれています。

ウェットブラスト法

一般にブラスト法とは、研磨剤を水や空気の力で加工物に吹き付け、バリや表面の異物などを除去する方法です。ブラストの際、空気ではなく水や溶剤を使う方法をウェットブラストといいます。ブラストを行う際、洗浄剤を混ぜた水を使って研磨剤を吹き付けることで、脱脂も行うことができます。

化学的方法

化学的方法は、油などの異物を化学反応によって除去する方法です。

アルカリ性洗浄

アルカリ性洗浄では、炭酸ソーダや苛性ソーダなどの強アルカリ性溶液を使用して、脱脂を行います。一般的には、これらの溶液を加熱し、PH(ペーハー)を管理しながら、加工品を浸漬します。
引火性がなく、毒性もすくないため、脱脂方法の中では比較的扱いやすいのが特徴です。また、比較的安価なため、幅広い分野で使用されています。
一方で、洗浄後の乾燥に時間がかかりやすいことや、金属系の加工物の場合には錆を誘発する可能性があること、のがデメリットです。

有機溶剤洗浄

有機溶剤洗浄は、塩素やフッ素、臭素系の有機溶剤を使用する脱脂方法です。有機溶剤が油脂を溶解する特性を利用しています。特にグリスなどの重質油を取り除く効果が高いのが特徴です、
洗浄力が高く、洗浄液の乾燥性が高いのがメリットです。さらに洗浄液を蒸留再生できるためコストメリットもあります。
一方で、樹脂の加工物では加工物も溶解してしまうため、使えない場合もあります。また環境への負荷が高くさまざまな規制があります。

炭化水素系洗浄

第4石油類に属する炭化水素系の溶剤を使う脱脂方法です。油脂の融解能力が高く、環境への負荷が低いこと、樹脂や金属への腐食が少ないことなどが特徴です。
一方で洗浄剤が可燃性液体であるため、消防法の規制が必要な他、洗浄装置には防爆処理が必要です。

その他の洗浄方法

脱脂洗浄においては、このような物理的、化学的方法に加えて、より脱脂効果を高めるための手法も用いられます。

超音波洗浄
超音波洗浄とは、洗浄液に浸漬させた加工物に対し、超音波を照射する方法です。洗浄効果を高める目的で、化学的方法の補助として行われます。
超音波を用いることにより、洗浄液の水流では落としにくい、穴の中や入り組んだ場所でも汚れを浮かせることができるのが特徴です。

酸洗洗浄
酸洗洗浄は脱脂工程の仕上げとして行われる洗浄です。主に金属の加工物を対象に行われ、アルカリ性洗浄などでは落としきれなかった錆やフラックス、酸化皮膜を除去します。

電解洗浄
電解洗浄は、金属の加工物を対象に、アルカリ性洗浄や酸洗洗浄の補助として行われます。脱脂液中の加工物を電極として通電することで、金属の表面に水素または酸素のガスを発生させます。これにより攪拌作用が生じ、汚れが剥がれやすくなる効果があります。
浸漬脱脂後の仕上げとして行われるのが一般的です。

素材別の脱脂洗浄

脱脂洗浄は、さまざまな素材に対して行われる重要な工程です。今回は、代表的な素材別に脱脂洗浄の注意点と推奨される方法について解説します。

ステンレス

ステンレスの脱脂洗浄は、あまり多くの制約を受けません。一般的な洗浄方法であれば、あまり問題なく洗浄可能です。
またステンレスは酸洗を行うことで、表面に均一な不動態皮膜を形成します。そのため酸洗により、油分やゴミを除去すると共に、不動態化処理が行えます。

アルミ

アルミはステンレスに比べて腐食しやすいのが特徴です。そのため洗浄液の濃度や温度、浸漬する時間などに注意が必要です。
アルミの表面処理として一般的なアルマイトでは、密着性を高めるため、前加工として脱脂洗浄が必須です。

樹脂

樹脂は、金属素材に比べて熱による変形が起こりやすく、洗浄液による腐食も起こりやすいです。そのため洗浄液の種類や濃度、温度などを適切に管理する必要があります。
樹脂の脱脂洗浄は主に塗装の前処理として行われます。

脱脂洗浄における注意点

脱脂洗浄の過程には細心の注意が必要です。適切な手順を踏まないと、洗浄効果が不十分であったり、逆に部品や装置にダメージを与えてしまう可能性があります。ここでは、脱脂洗浄を行う際に注意すべきポイントを詳しく解説します。

脱脂剤の適切な選択

脱脂剤は素材や汚れの種類によって適切に選択する必要があります。
たとえば金属材料であれば、多くの脱脂剤が使えますが、樹脂素材に対しては炭化水素系の脱脂剤は腐食や溶解が発生しやすくなります。
さらに汚れの種類においては、アルカリ性の脱脂剤であれば、金属加工油やグリス、防錆油などの他、研磨剤や塗料の除去か可能です。一方で酸素系洗浄剤は、油脂以外にも錆やスケールの除去が可能です。

洗浄時間と温度の管理

脱脂洗浄においては洗浄時間(浸漬する時間)や洗浄液の温度の管理が欠かせません。洗浄する部品の材質や、汚れの種類、量によってこれらを適切に管理します。
浸漬時間が長ければ、腐食を招きやすくなります。また温度が高すぎれば、腐食を進めたり、洗浄する部品の変形を招いたりします。
浸漬時間を長くしたり、洗浄液の温度を上げられない場合には超音波洗浄を併用するなどの対策が必要です。

洗浄後の残留物の除去

脱脂洗浄後の残留物には主に3種類あります。
一つは洗浄液の水分、もう一つが洗浄液の活性剤、最後に残留油脂です。
洗浄液の水分は、十分な乾燥を行うことによって防げます。特に金属の場合、脱脂後に水分が残っていると腐食の原因になるため、念入りな乾燥が必要です。
洗浄剤の活性剤の残留については脱脂後の洗浄を適切に行うことで防げます。活性剤が残留していると、メッキや塗装の密着が悪くなるため注意が必要です。
脱脂洗浄において最も注目を集めるのが、残留油脂です。残留油脂とは、脱脂洗浄で取り除ききれなかった油脂のことです。残留油脂の評価には目視やセロハンテープによる粘着試験の他、濡れ試験や試薬を使った試験など、さまざまなものがあります。次の表面加工の工程の品質を向上させるため、残留油脂を適切に評価する必要があります。

脱脂洗浄と環境

特に有機溶剤においては、近年、SDGsなどをはじめとした環境への意識の高まりから、使用が規制される傾向があります。そのため有機溶剤での洗浄から炭化水素系洗浄に移行するケースが増えています。
ISOなどの規定により、工程内で有機溶剤を使用している部品は取引きできないケースもあり、より環境にやさしい洗浄への移行が望まれています。

まとめ

脱脂洗浄とは、加工されたワークや材料に付着した油脂や研磨剤、ほこりなどの異物を除去するものです。脱脂洗浄には物理的脱脂と化学的脱脂があり、物理的脱脂には蒸気洗浄、ウェットブラスト洗浄があります。化学的脱脂にはアルカリ性洗浄、有機溶剤洗浄、炭化水素系洗浄などがあります。化学的脱脂と併せて超音波洗浄や酸洗浄法、電解洗浄が行われることもあります。脱脂洗浄では材料や汚れの種類に合せて洗浄方法を選ぶ必要があります。また濃度や温度、洗浄時間などの条件も選択し、適切な脱脂を行うことが必要です。

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