ABS樹脂とは、アクリロニトリル(A)・ブタジエン(B)・スチレン(S)の3種類のモノマーからなる熱可塑性樹脂です。3成分それぞれの長所を併せ持ち、強度・加工性・外観のバランスに優れるため、家電や自動車、生活用品まで幅広い製品に使われています。
本記事では、ABS樹脂の基本的な定義から特徴・用途、よく比較されるポリカーボネートとの違い、材料選定時の注意点までを整理します。

目次
ABS樹脂とは?

ABS樹脂は、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン樹脂という別名が示すように、アクリロニトリル(A)、ブタジエン(B)、スチレン(S)という3種類のモノマーを使って作られる熱可塑性樹脂です。別名「アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合体」とも呼ばれます。常温では非晶性(アモルファス)の固体で、明確な融点を持たない点が特徴です。
3つの成分はそれぞれ異なる性質を担っており、配合比率や結合方法を調整することで、用途に応じた多様なグレードを作り分けられます。各成分の役割は次のとおりです。
| 成分 | 主に担う性質 |
| アクリロニトリル(A) | 耐熱性・剛性・耐油性・耐薬品性 |
| ブタジエン(B) | 耐衝撃性(ゴムのような粘り) |
| スチレン(S) | 光沢・成形加工性・寸法安定性 |
ABS樹脂は1948年に特許化され、1954年に米国で工業製品として市販されたと、業界資料や百科事典など複数の文献で説明されています。市販化はBorg-Warner社(前身のMarbon Chemical部門)が「Cycolac」ブランドで行ったとされ、初期の代表的な用途には電話機の筐体やポータブルラジオの外装などがありました。以来、3成分の比率を変えることで幅広い特性を実現できる点が評価され、汎用的なエンジニアリングプラスチックとして世界的に普及しています。
ABS樹脂はさまざまな機械的特徴をバランスよく有しており、見た目も美しいため、汎用的なプラスチック素材としてさまざまな場面で活用されています。需要も世界的に伸びており、現代生活に欠かせない材料だといえるでしょう。
ABS樹脂の特徴
ABS樹脂にはどのような特徴があるのでしょうか。メリットとデメリットを解説します。
ABS樹脂のメリット
耐熱温度が高く熱に強い
ABS樹脂の耐熱温度は70~100℃程で、ポリエチレンやポリスチレンなどと同程度です。耐熱性が特別高いわけではありませんが、一般的な用途で使用する分には十分だといえるでしょう。
外部からの衝撃に強い
ABS樹脂はブタジエンを含むため、ゴムのような耐衝撃性を示します。
用途に合わせて柔軟に加工できる
ABS樹脂は加工性がよく、射出成形や押出成形、カレンダー加工、真空成形など、さまざまな方法で成形できます。さらには、切削や接着、溶着、各種表面処理(めっきや塗装)なども可能です。最近では加工性のよさを活かして、3Dプリンター用の材料としても活用されています。
デザイン性が高い
ABS樹脂は、表面の光沢性や着色性にすぐれています。そのため、ABS樹脂を使えば製品のデザイン性を高めることが可能です。ABS樹脂を射出成形して、塗装なしで表面をピアノブラック調(黒い光沢のある状態)に仕上げる技術も存在します。
成分を追加または変更して、さまざまな特性を付与できる
既存成分(アクリロニトリル、ブタジエン、スチレン)以外の成分を加えたり、既存成分の一部を別の成分と入れ替えたりすることで、さまざまなABS樹脂をつくり出せます。たとえば、ガラス繊維を加えて剛性を強化した「強化ABS樹脂」や、ブタジエンのかわりに塩素化ポリエチレンを使用した「ACS樹脂」などが知られています。
ABS樹脂のデメリット
耐候性が低く劣化しやすい
ABS樹脂は耐候性が低く、太陽光に長時間さらされると変色や光沢劣化が起こります。そのため、屋外など、強い紫外線に長時間さらされる場所では使用しないようにしましょう。最近は、表面加工や紫外線吸収剤の添加などによって耐候性を向上させたABS樹脂も登場しています。
有機溶剤に弱い
ABS樹脂は、耐薬品性がそこまで高くありません。特に有機溶剤には弱く、有機溶剤が内部にしみこむと劣化してもろくなる場合があります。
燃えやすい
可燃性を示す点はABS樹脂のデメリットです。炎にさらされると、ススと特異臭を出しながら燃えてしまいます。近年では、さまざまな難燃剤を加えて燃えにくくしたABS樹脂も存在します。
ABS樹脂の用途
ABS樹脂は特性をバランスよく示し、加工方法も多様なため、身の回りのさまざまな製品に使われています。以下は用途の一例です。
家電製品
テレビ、冷蔵庫、洗濯機、掃除機、扇風機、ドライヤー、エアコンなどの部品
自動車などの車両
フロントグリル、ラジエーターグリル、インストルメントパネル、ドアパネル、フロントカバー、ランプカバー、コンソールボックス、その他内装部品など
一般機器
プリンター、複写機、パソコン、電話機、ファックスなどの部品
その他
家具、建材、住宅用品、文房具、おもちゃ、キャリーケース、スーツケース、アタッシュケース、ヘルメット、楽器、雑貨、食卓用品、3Dプリンター用材料など
切削としてABS樹脂を使用する場合
ABS樹脂は切削加工を施して使うこともできます。例えば板状の素材に対し上下面フライス加工や6面フライス加工を施して面の精度を上げ、それを元に切削加工を行うこともできます。他にも、ネジを通す穴を開けたり、円形のプレート状に加工できます。
切削加工したABSは機器のパーツや外装などの製品として使用されます。また、本来は射出成形を行う製品の試作としてブロックから切削で切り出す場合もあります。
ABS樹脂とポリカーボネートの違い
ABS樹脂とポリカーボネート(PC)はスーツケースや機器の筐体でよく併用されます。PCは炭酸エステル結合をもつ熱可塑性樹脂で、耐衝撃性・耐熱性・透明性に優れ、ABS樹脂とは得意分野が異なります。主な違いを表で整理します。
| 項目 | ABS樹脂 | ポリカーボネート(PC) |
| 耐熱性(荷重たわみ温度の目安) | 約80〜100℃ | 約120〜140℃ |
| 耐衝撃性 | 良好 | 極めて高い(最高水準) |
| 低温特性 | 低温で脆くなりやすい | −100℃前後でも靭性を保ちやすい |
| 燃焼性 | 標準品は可燃性 | 自己消火性(グレードによる) |
| 耐薬品性 | 有機溶剤・強酸強アルカリに弱い | 有機溶剤・アルカリに弱い |
| 透明性 | 標準品は不透明 | 高い透明性 |
| 表面硬度 | 比較的傷つきにくい | 表面は傷つきやすい |
| 価格傾向 | 比較的安価 | ABSより高め |
- 耐熱性:PCのほうが高温に強く、低温特性にも優れ広い温度域で使いやすい。
- 耐衝撃性:PCはプラスチック中でも最高水準。一方で表面が傷つきやすい。
- 耐薬品性:両者とも有機溶剤・アルカリに弱い。とくにPCはアルカリで加水分解を受けやすい。
- 燃焼性:PCは自己消火性で、ABSより燃え広がりにくい。
ABS樹脂と関連樹脂の違い
ABS樹脂をベースに弱点を補ったり特性を変えた関連樹脂があり、用途に応じて使い分けられます。
| 樹脂 | 概要 | ABSとの主な違い |
| AS(SAN)樹脂 | アクリロニトリル+スチレン | ブタジエンを含まず透明だが耐衝撃性は低い |
| ASA樹脂 | ゴム成分を耐候性の高い成分に置換 | 耐候性が高く屋外用途向き |
| AES樹脂 | ゴム成分にエチレン系を使用 | 耐候性と耐衝撃性を両立しやすい |
| ACS樹脂 | ブタジエンの代わりに塩素化ポリエチレンを使用 | 耐候性・難燃性を高めやすい |
| PC/ABS(アロイ) | PCとABSのブレンド | 耐熱・耐衝撃と成形性のバランス |
まとめ
ABS樹脂は、アクリロニトリル(A)、ブタジエン(B)、スチレン(S)という3種類のモノマーから構成される熱可塑性樹脂です。各構成成分の性質を合わせもつため、機械的特徴のバランスがよく、さまざまな用途に活用されています。
ABS樹脂には、熱や衝撃に強い、加工性がいい、デザイン性が高いといったメリットがあります。各モノマーの比率や結合方法を変えて、さまざまな特性を付与することも可能です。一方で、耐候性が低い、有機溶剤に弱い、燃えやすいといった点はデメリットです。
用途に応じてグレードや関連樹脂(ASA・PC/ABSなど)を使い分けることが重要です。実際の数値や適合性はメーカーのデータシートで確認したうえで選定しましょう。







