製造業や設計の現場において、適切な材料選択は製品の性能と耐久性を左右する重要な要素です。特に金属材料は、多様な特性により工業製品や建築物、機械部品など幅広い分野で利用されています。
本記事では、金属材料の基本的な定義から鉄鋼・非鉄金属の種類、重要な性質(強度・硬さ・靱性・比重)さらには加工方法や材料選定のポイントまで総合的に解説します。金属材料の基礎から応用を体系的に理解したい設計者や技術者は最後までご覧ください。
目次
金属材料とは
金属材料は、金属元素を主成分とする材料の総称であり、鉄鋼材料と非鉄金属材料に大別されます。日用品から産業機械まで幅広く使われる材料です。金属は、金属光沢を持ち、電気や熱を伝えやすく、延性や展性など加工しやすい性質があります。他の元素を添加して合金化すれば、さらに多様な性質を付与可能です。
鉄鋼材料
鉄鋼材料は、鉄(Fe)を主成分とし、炭素を一定量含む合金です。炭素量で硬さと強度が変わり、多くの種類があります。代表的なものには、建築構造や自動車などに用いられる炭素鋼(SS材、SC材)、耐食性に優れたステンレス鋼(SUS材)、工具などに用いられる合金鋼(SKH材、SKD材)、そして鋳造性に優れる鋳鉄などがあります。鉄鋼材料は、強度と加工性のバランスに優れ、幅広い分野で利用されています。
非鉄金属材料
非鉄金属材料は、鉄を主成分としない金属・合金の総称です。鉄鋼材料と比較して一般的に高価ですが、軽量・高い導電性・耐食性・非磁性といった特性を持つものが多く、特殊な用途で重要な役割を果たします。代表的なものには、軽量で航空機や自動車に用いられるアルミニウム、高い導電性を持つ銅、強度と耐食性に優れるチタン、装飾品や電子部品に用いられる金や銀などがあります。また、黄銅や青銅といった合金も広く利用されています。
金属材料の性質
金属材料の性質は機械設計や加工において、材料の用途や適性を決定する基準となり、製品の性能や耐久性に直接影響を及ぼします。各金属材料は異なる性質を持っており、性質の強弱によって柔軟性や耐久性などの多様な個性が生まれます。
ある性質が強くなると別の性質は弱くなる傾向もあり、適切に材料を選定するには性質のトレードオフを理解しなければなりません。金属材料の性質を把握して、製品の要求仕様に合った最適な材料を選択しましょう。
材料の性質を表す代表的なものに、強度・硬さ・靭性(じんせい)・比重の4つがあります。これらについて詳しく紹介します。
強度
強度とは、材料が外力に耐える能力を示す性質です。一般的に「丈夫さ」と表現され、同じ太さの材料を引っ張ったときに破断せずに耐えられる最大の力(引張強さ)で評価されます。
材料には引っ張りだけでなく、圧縮、せん断、曲げなどさまざまな力が作用しますが、微視的にはこれらも引っ張りの力に帰結するため、引張強さが材料の「強さ」を表す指標として重視されます。強度は部品や機械を設計する際に最初に確認すべき性質であり、強い力がかかる部位には高強度の材料を選択しましょう。
硬さ
硬さとは、材料が局所的な力に対して変形や損傷に抵抗する能力を示す性質です。小さな範囲に力を加えたときにどれだけ傷になりにくいかで表されます。強度が変形を受け入れつつ耐える性質であるのに対し、硬さは変形自体を跳ね返す性質といえるでしょう。
硬さは摩耗(すり減り)に対する抵抗力に大きく関わり、焼入れなどの熱処理により元の材料よりも硬さを向上させることも可能です。硬さが高くなると切削加工などの機械加工が難しくなる傾向もあるため注意が必要です。歯車や軸受けなど、繰り返しの摩擦を受ける部位には硬さの高い材料の選択が推奨されます。
靱性
靱性(じんせい)とは、材料が粘り強く破壊に抵抗する性質で、粘り強さとも表現されます。陶器のように脆く壊れるのではなく、力を加えても即座に破断せず、変形しながらエネルギーを吸収できる能力を示します。
靱性は最大荷重を超えた後、完全に破断するまでの間にどれだけエネルギーを吸収できるかを評価する指標です。衝撃的な力や繰り返し荷重がかかる環境では、靱性の高い材料を選ぶといいでしょう。
比重
比重とは、水と材料の密度の比を表す無次元の値で、材料の軽重を示す重要な指標です。比重が大きい材料は重く、小さい材料は軽くなります。機械設計や設備設計の現場では、密度よりも比重で材料の重さを表現することが一般的です。JIS規格や技術文書では密度表記が原則ですが、機械設計や設備設計の現場では比重が直感的に理解しやすく、概算に適しているため広く使用されています。
比重については、以下の記事で詳しく解説しているのでこちらもご覧ください。
関連記事:設計者必見!金属比重データ活用術~製品性能向上のための材料選定~
関連記事:鉄の比重はなぜ重要?製造業の設計者が知っておくべき基礎と計算方法
金属材料にはさまざまな「性質」がある
人それぞれに個性があり、個性にあった仕事があるように、金属の材料もそれぞれの特徴があります。
一般的に金属材料の性質は、硬さ、靭性、延性、比重などを基に説明します。これら性質の強弱の組みあわせによって、柔軟さや耐久強さなどの多様な個性が生み出されます。
またある性質が強くなれば、別の性質が弱くなる傾向が強いなどの、性質による傾向も存在します。個性によって、適した用途が変わってくるのです。
金属材料の「性質」を表す言葉
材料の性質を表す代表的な言葉に、強度、硬さ、靭性、比重の4つがあります。これらについて紹介します。
強度(引っ張り強さ):強度は、一般的に考える「丈夫さ」を指します。同じ太さの材料を引っ張ったときに、破断せずに耐えられた最大の強さを示します。この点を超えると、材料は急激に強度を失い、最大値よりも少ない荷重で破断に向かいます。材料には引っ張りだけでなく、ねじるような力や折り曲げるような力、せん断というハサミで切るような力など、さまざまな力がかかります。しかしそれらも、小さな視点でみると引っ張りの力が多く作用するため、引っ張り強さが「強さ」「丈夫さ」として扱われます。
部品や機械を設計する際、外力に対する「強さ」を見るために、まずチェックする性質です。強い力がかかる部品や機械には強度の高い材料を選びましょう。
硬さ:材料の硬さは、ものに爪を立てるように非常に小さい範囲に力を加えて、どれくらい傷になりやすいかで表します。強度は変形を受け入れつつ耐える強さのイメージですが、硬さは変形を跳ね返す強さのイメージです。摩耗(すり減り)に対する強さに大きくかかわる性質です。焼き入れなど、元の材料に加工を追加して強化できる場合があります。硬さが高くなると、切削加工などの機械加工が難しくなります。
材料の疲労強度や摩耗強さなどを向上させたいときにチェックする性質です。歯車や軸受けなど、繰り返しの摩擦を受ける部位には硬さが高い材料を選んだほうがいいでしょう。
靭性:靱性は粘り強さともいいます。陶器のように脆く壊れてしまわない性質です。強度は荷重の最大値を超え、より少ない荷重で急激な変形がはじまるまでの強さをいいますが、靭性は荷重の最大値を超えた後、変形に必要とする荷重を減らしつつ引きちぎられるまでの間に、どれだけ耐えられるかもあわせて評価されます。破壊的で衝撃的な力に対する強さになります。かかる荷重の変動が大きい場合や、振動や衝撃を受けやすい場合には、靱性の高い材料を選びましょう。
比重:比重の定義は水と材料の密度の比ですが、要するに重さだと考えるといいでしょう。比重が大きい材料は重く、比重が小さい材料は軽くなります。機械設計や設備設計、生産技術の現場では、密度よりも比重で材料の重さを表します。材料の重量について考えるときにチェックする性質です。
金属材料の性質のおおまかな関係
金属材料の性質には大まかな関係性がいくつかあります。
- 強度が高くなると比重も大きくなる
強い材料を選ぶと重くなる傾向があります。強くて軽い材料は、それほど多くありません。 - 硬さが増すと靭性が下がる
硬さが増すと靭性が下がり、欠けやクラックにつながりやすくなります。陶器は強く押しても凹みませんが、一定の力を加えると砕けます。これは硬さと靭性の関係をイメージするのに、非常に分かりやすい例です。 - 硬さが増すと強度も高くなる
硬さと強度が深く関連しているのは、想像しやすいと思います。強靭な筋肉は、外側から触れてもハリがありプニプニしていないのと似ていますね。 - 強度や硬さが増すと加工しにくくなる
バナナと凍った肉、どちらが切りやすいかを想像してみると分かりやすいでしょう。強いものや硬いものは、切削加工や塑性加工などの加工が難しくなります。
このように金属材料は、一つの性質が変われば、他の性質も変わる傾向があります。設計などで材料を選ぶ際には、性質のバランスを見ながら決めるようにしましょう。
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